06 泣きやんでつがいの鳥の青白い胸をあわせて空へ放した 帰らなきゃ 俺に聞かせる意図を含まずにしかしはっきりとそう発音して身を起こした彼を黙って見送っていたのだ。いつも俺たちはそうだった。帰る場所より自分を優先するときに、千は俺の家を訪ねて勝手に過ごし、満たされたらまた帰っていく。それをただ許すだけだった。 寝台の大きさは任せる、でもふたつじゃなくてひとつがいいと駄々を捏ねたのもまた彼だ。それを易々と呑んでしまったことを、こんなときは今更ながら後悔したりもする。 久しぶりに二人で開けたアルコールのボトルが満遍なく身体中を巡っている。千の頬もおそらく変わらないくらい赤い。そんな夜だった。だから口が緩んで 「連絡先、交換したの」 その瞬間にまた後悔した。 「……まあ。別にやり取りしてないけど」 後ろめたいと思ったから言葉に詰まったんだよな。と、別に確かめなくても一瞬で理解する。一瞬、見えただけのラビチャの画面に過ぎっていた彼の名前を確認したときのように明確に。 「帰ったときにしたのか?」 「うん。そう。見る? 何も喋ってないけど」 おずおずと差し出された真っ黒の液晶に自分の表情が映し出されて、脳の真ん中で燻っていた熱が一瞬で抜けて視界が鮮明になる。絡みついてくる千の身体との温度差を容易に思い出せるほど明確に。 「見ないし、別におまえの好きにすれば。このままセックスしたいならそれも付き合うし」 「万、ごめん」 「それでも一緒にいたいなら付き合うって言ってるんだよ」 「わかってる。消せばいいんだろ。また携帯も変えるよ」 「次はいつ帰るんだ」 「……」 わからないと千はつぶやいた。どこまでの意味を孕んでいるのかはわからない。ただその全てが俺に訊かせるための千の意図が染み付いている。 「そうか、じゃあ決まったらまた教えろよ」 この家にひとつしかない寝台に千を押し倒す。かけた力のとおりに弱々しく千は倒れて心許なくシーツに沈む。してやればこいつが喜ぶことにも随分詳しくなった。ただ一方的に暴かれて、だからこんなときでも千は心細そうに自分を見上げることしかできない。 「万、もっと強く、……ねえ、近くにきて」 そんなことをねだられたってますますどうでもよくなるばかりだ。興醒めした気分で皮膚を引っ掻く。のびた千の喉が不安げに、しかしたしかに快楽を受け取っている。 2025/06/11(Wed)
帰らなきゃ
俺に聞かせる意図を含まずにしかしはっきりとそう発音して身を起こした彼を黙って見送っていたのだ。いつも俺たちはそうだった。帰る場所より自分を優先するときに、千は俺の家を訪ねて勝手に過ごし、満たされたらまた帰っていく。それをただ許すだけだった。
寝台の大きさは任せる、でもふたつじゃなくてひとつがいいと駄々を捏ねたのもまた彼だ。それを易々と呑んでしまったことを、こんなときは今更ながら後悔したりもする。
久しぶりに二人で開けたアルコールのボトルが満遍なく身体中を巡っている。千の頬もおそらく変わらないくらい赤い。そんな夜だった。だから口が緩んで
「連絡先、交換したの」
その瞬間にまた後悔した。
「……まあ。別にやり取りしてないけど」
後ろめたいと思ったから言葉に詰まったんだよな。と、別に確かめなくても一瞬で理解する。一瞬、見えただけのラビチャの画面に過ぎっていた彼の名前を確認したときのように明確に。
「帰ったときにしたのか?」
「うん。そう。見る? 何も喋ってないけど」
おずおずと差し出された真っ黒の液晶に自分の表情が映し出されて、脳の真ん中で燻っていた熱が一瞬で抜けて視界が鮮明になる。絡みついてくる千の身体との温度差を容易に思い出せるほど明確に。
「見ないし、別におまえの好きにすれば。このままセックスしたいならそれも付き合うし」
「万、ごめん」
「それでも一緒にいたいなら付き合うって言ってるんだよ」
「わかってる。消せばいいんだろ。また携帯も変えるよ」
「次はいつ帰るんだ」
「……」
わからないと千はつぶやいた。どこまでの意味を孕んでいるのかはわからない。ただその全てが俺に訊かせるための千の意図が染み付いている。
「そうか、じゃあ決まったらまた教えろよ」
この家にひとつしかない寝台に千を押し倒す。かけた力のとおりに弱々しく千は倒れて心許なくシーツに沈む。してやればこいつが喜ぶことにも随分詳しくなった。ただ一方的に暴かれて、だからこんなときでも千は心細そうに自分を見上げることしかできない。
「万、もっと強く、……ねえ、近くにきて」
そんなことをねだられたってますますどうでもよくなるばかりだ。興醒めした気分で皮膚を引っ掻く。のびた千の喉が不安げに、しかしたしかに快楽を受け取っている。